「乳製品、見直してみる?」—ロナウドが乳製品を控える本当の理由
- 健三 藤田

- 5月8日
- 読了時間: 9分
🥛「乳製品、見直してみる?」
—ロナウドが乳製品を控える本当の理由

アスリートの視点から考える、乳製品との付き合い方
まず結論から
「でもプロテインやヨーグルトってカルシウムあるし、筋肉にいいんじゃないの?」
その疑問はもっともだ。この記事では、その「常識」を栄養科学・進化生物学・食品産業の歴史という三つの角度から掘り下げていく。
乳製品を全否定するのが目的ではない。知った上で選ぶための情報を届けたい。
第1章 ロナウドの体は「炎症コントロール」を最優先にしている
ロナウドの食事方針
彼の食事はシンプルな原則に基づいている。
鶏胸肉・タラなどの高タンパク食材
アボカド・オリーブオイルなどの質の高い脂質
全粒穀物・新鮮な野菜
ホエイプロテイン・カゼインプロテイン・ヨーグルト・チーズといった乳製品は意図的に除外されている
理由は一言 ——「不必要な炎症を体内で起こしたくないから」だ。
「炎症」がトレーニングの回復を妨げる
筋トレで筋肉が微細に損傷し、修復されることで筋肥大が起きる。これは多くの人が理解している。
重要なのは、食事由来の慢性的な炎症が、この回復プロセスを阻害する可能性があるという点だ。
トレーニング → 筋肉の損傷 → 炎症 → 修復 → 成長
↑
食事由来の余分な炎症が加わると回復が遅延する可能性がある
ホエイプロテインやカゼインプロテインの原料となる乳に含まれるカゼインタンパク(乳タンパク全体の約80%)は消化に時間がかかり、一部の人において腸内環境を乱し、慢性的な低度炎症につながる可能性が研究で指摘されている。
2020年に栄養学専門誌『Nutrients』に掲載された研究では、乳製品の摂取量とIL-6・CRPといった炎症マーカーの上昇に相関が見られるケースが報告されている。
ただし、これは個人差が大きい。全員に同様の影響が出るわけではない。
乳糖不耐症
—多くの人が「完全には消化できていない」
ヨーグルトやチーズを食べると胃腸の調子が乱れる経験はないだろうか。
これは乳糖不耐症と呼ばれる状態だ。乳製品に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する酵素「ラクターゼ」の活性が、成人になるにつれて低下することで生じる。
ヨーグルトは発酵過程で乳糖がある程度分解されるため、比較的消化しやすいとされる。ただし乳糖が完全に除去されるわけではなく、敏感な人には影響が出る場合がある。
WHOのデータでは、世界の成人の約65〜70%がこの傾向を持つとされている。
腸の不調が続くと:
栄養の吸収効率が低下する
腸内フローラが乱れる
全身の炎症リスクが高まる可能性がある
腸内環境の乱れは、回復速度とパフォーマンスに直結する問題だ。
IGF-1 ——筋肉の成長を促す成分の「もう一つの顔」
乳製品全般にはIGF-1(インスリン様成長因子-1)が含まれており、摂取によって体内のIGF-1レベルが上昇することが確認されている。ホエイプロテインも例外ではない。
IGF-1は筋肉や骨の成長を促す働きを持つ一方、細胞増殖を過剰に促進するリスクも持つ。
ハーバード大学のウォルター・ウィレット教授らの研究グループは、乳製品摂取量と前立腺がんリスクの相関について長期コホート研究の中で言及しており、学術的な注目を集めている。
これは「乳製品が危険」という断定ではなく、過剰摂取に対する注意喚起として受け取ってほしい。
第2章
生物学的に見た「他の動物の乳を原料とした食品を摂り続ける」という行為
自然界における哺乳類の授乳の原則
生物学の基本として、哺乳類の乳はその種の新生児のために最適化されている。
子牛は母牛の乳で育ち、成長とともに自然に離乳する。これは地球上すべての哺乳類に共通する行動パターンだ。
成体の哺乳類が、別の種の乳を原料とした食品を継続的に摂取し続ける ——これは自然界では観察されない行動だ。
これが即座に「人間にとって有害」を意味するわけではない。ただ、一度立ち止まって考える価値のある視点ではある。
乳製品の原料となる乳の成分設計
乳製品の原料となる牛の乳は、生後すぐに急成長する子牛向けに設計されており、人乳と比較すると成分に顕著な差がある:成分牛の乳人乳タンパク質約3.3g/100ml約1.1g/100mlカゼイン比率約80%約40%IGF-1比較的高濃度低濃度
この原料を加工して作られるホエイプロテイン・ヨーグルト・チーズもこれらの成分特性を引き継いでいる。人間の成体の体内でどう作用するかは、個人差もあり一概には言えない部分もある。
「乳製品を消化できる」のは遺伝的適応によるもの
成人になっても乳糖を分解できる「ラクターゼ持続性(LP)」という形質は、約1万年前の牧畜文明の発展とともに一部の集団で自然選択された遺伝子変異によるものだ。
その割合は民族によって大きく異なる:民族・地域ラクターゼ持続性の割合北欧系白人約90%東アジア系約10〜15%西アフリカ系約10〜20%世界平均約35%
日本人を含む東アジア系の多くは、遺伝的に「乳製品を完全消化する前提」で設計されていない可能性が高い。
これは「東アジア人は乳製品を摂るべきでない」という話ではなく、自分の体質を理解した上で摂取量を検討すべきという視点だ。
第3章
「乳製品=健康」というイメージはどう作られたか
食品産業と健康イメージの形成
「丈夫な骨にはヨーグルト・チーズ・プロテイン」「カルシウムは乳製品で摂れ」——こうしたメッセージは、20世紀を通じて世界中の教育・広告に定着してきた。
アメリカでは乳業団体が政府の食事ガイドラインに対して強い影響力を持ち、大規模キャンペーンに莫大な費用を投じてきた歴史がある。フィットネス産業においても、ホエイプロテインを中心とした乳由来サプリメントは市場の中核を占めており、その健康・筋肉イメージは膨大なマーケティング投資によって形成されてきた側面がある。
ここで伝えたいのは乳業産業を批判することではなく、「健康情報は誰が発信しているかも含めて精査する必要がある」という視点だ。
ハーバード大学の見解
ハーバード公衆衛生大学院が作成した「健康的な食事プレート」では、乳製品は必須食品として位置付けられていない。
その根拠のひとつとなった看護師健康研究(Nurses' Health Study)では、乳製品の大量摂取が骨折リスクの低下につながるという明確なエビデンスは得られなかった。
これは「乳製品が骨に効かない」という断定ではなく、「従来信じられていたほど単純な因果関係ではない」ことを示している。
カルシウムは多様な食品から摂取できる
「乳製品を控えたらカルシウムが不足する」という懸念はよく聞かれる。しかし他の食品にも豊富なカルシウム源は存在する:食品カルシウム(100gあたり)切干大根540mgアーモンド264mg大豆(乾燥)240mg小松菜170mgヨーグルト(プレーン)120mgチーズ(プロセス)630mgブロッコリー50mg
チーズはカルシウム含有量が高い一方、脂質・塩分も多い。また骨の健康に重要なのはカルシウム単体ではなく、ビタミンD・マグネシウム・荷重運動との組み合わせであることが現代の骨代謝研究では広く支持されている。
乳製品と疾患リスクに関する研究
ハーバード大学のGanmaaとSatoによる2005年の研究(Medical Hypotheses)では、乳製品の消費量と乳がん・前立腺がん罹患率の間に正の相関が見られることが報告されている。
背景として挙げられているのは:
妊娠中の乳牛から搾乳された乳に含まれる高濃度のエストロゲン
IGF-1の摂取による細胞増殖への影響
この研究は相関を示したものであり、因果関係を確定したものではない。ただし「過剰摂取には注意を払う価値がある」というシグナルとして受け止めることは合理的だ。
第4章 乳製品と人類の歴史 ——1万年という「比較的短い」付き合い
人類と乳製品の歴史を俯瞰する
ホモ・サピエンスが地球に現れたのは約20〜30万年前。農耕・牧畜が始まったのは約1万年前だ。
人類の歴史のうち、動物の乳やそれを加工した食品を継続的に摂取していた期間は全体のごく一部に過ぎない。進化的なスケールで見れば、人間の体が乳製品を「前提」として最適化されている可能性は低いと言える。
乳製品文化が普及した背景
中世ヨーロッパでヨーグルト・チーズ・バターが重視された理由は明確だ——飢饉の時代における高カロリー食料の確保という生存上の必要性からだ。
牧草地から人間が摂取できる高カロリーを得るための手段として、牛を通じた乳の利用は合理的な戦略だった。冷蔵技術のない時代に乳を保存するための加工技術が、今日のチーズ・バター・ヨーグルト文化の原点となった。
産業革命以降の変化
19〜20世紀にかけて、低温殺菌技術と冷蔵輸送の普及により乳製品は都市部でも大量流通が可能になった。
同時期、欧米の政府は農業振興策の一環として酪農を支援し、学校給食への乳製品導入によって消費習慣を社会に定着させた。
20世紀後半以降はフィットネスブームとともにホエイプロテイン産業が急成長し、「筋肉づくりには乳由来タンパク」というイメージがトレーニー文化に深く根付いた。
「乳製品は健康にいい」「プロテインはホエイが最高」という認識が広まった背景には、純粋な栄養科学だけでなく、政策・産業・マーケティングが複合して絡み合った歴史がある。
現代の酪農の実態
現代の商業酪農では、乳牛は持続的な搾乳のために計画的な繁殖サイクルで管理されており、妊娠中にも搾乳が行われる。この時期に産出される乳はホルモン濃度が高くなる傾向がある。
ホエイプロテインやヨーグルトの原料となる乳もこの工程から来ている。食の選択における倫理的・健康的な視点のひとつとして、知識として持っておく価値のある情報だ。
まとめ
——知った上で選ぶ
章要点第1章ホエイ・ヨーグルト・チーズは人によって炎症・消化障害の原因になりうる。個人差が大きい第2章乳製品の原料は子牛向けの設計。成人の多くは遺伝的に完全消化が困難第3章「乳製品=健康・筋肉」は科学と産業・政策・マーケティングが複合して形成されたイメージ第4章人類が乳製品を継続摂取してきた歴史は進化的には「ごく最近」のこと
ロナウドは乳製品を「有害なもの」として否定しているわけではない。
彼が実践しているのは、「自分の体に何が必要で、何が不要かを科学的に精査し、意図的に選択すること」だ。
乳製品が体質に合っている人にとっては、有益な選択肢のひとつであることは変わらない。一方で、「なんとなくホエイを使っている」「ヨーグルトは健康食だと思い込んでいる」という状態から一歩引いて、自分の体質と目的に合わせて選択するという姿勢は、すべてのトレーニーに持ってほしいマインドだ。
参考:WHO, Harvard T.H. Chan School of Public Health, Nurses' Health Study, Nutrients (2020), Medical Hypotheses (Ganmaa & Sato, 2005), 文部科学省食品成分データベース
k-fit | 藤田 健三
福岡市・警固の完全個室パーソナルトレーニングジム
「本来の身体のバランスを取り戻す」をコンセプトに、運動・栄養・マインドフルネスを組み合わせた指導を行っています。
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